先日、以前からお付き合いのある神社仏閣の古い絵画修復を手掛ける方からお誘いをいただき、京都のギャラリーで開催された「膠(にかわ)」の展覧会へ足を運びました。

膠。それは、日本画や修復の現場で古くから使われてきた、動物の皮や骨を原料とする天然の接着剤であり、絵具を固める展色材です。今回の展覧会は、この一見すると泥臭い、しかし日本の美を足元から支え続けてきた素材にスポットを当てたものでした。
散策の中で感じた「素材の奥深さ」と、それを支えるサプライチェーン、そして組織を永続させるための経営管理についての考察を綴ります。
【散策編】膠へのまなざし|「獣(けだもの)」が「美」へと昇華されるプロセス
会場に足を踏み入れると、木格子の壁に掲げられた巨大なモノクロームのパネルが目を引きます。

『膠(にかわ)へのまなざし』。
そこに映し出されているのは、毛むくじゃらの動物の皮膚。膠の原料そのものです。この「獣」としての泥臭い現場から、いかにしてあの洗練された日本画の「美」が生まれるのか。展覧会は、そのプロセスを鮮烈に伝えていました。

別のスペースには、巨大な動物の皮が乾燥された状態で掲げられ、手前には木製の大きなドラムのような機械が置かれていました。膠を作るために、皮を洗浄し、煮出し、抽出する。その工程が決してスマートなだけのものではなく、命と向き合い、汗を流す「一次産業」の現場であることを突きつけられます。

この現場主義の「泥臭さ」を知るからこそ、そこで生まれた膠を使って描かれ、修復された絵画の「美」に、より深い敬意を抱くことができます。
【経営考察編】素材のSCM(サプライチェーン)と、伝統を永続させる「経営管理」
さて、ここからは、修復会社様とのお話や展覧会から得た気づきを、ビジネスのロジックへと昇華させたいと思います。
「膠」という素材一つをとっても、そこには「伝統を未来へ永続させる(変わり続ける)」ための高度な経営管理と、サプライチェーンの物語があります。
「変わらないための、素材の変わり続ける努力」
神社仏閣の修復において、最も重要なのは「当時と同じ素材、同じ工法を使うこと(変わらないこと)」です。しかし、実はこれが最も難しい。なぜなら、環境や技術、社会の要件が「変わり続ける」からです。
- サプライチェーン(SCM)の危機: 膠の原料となる高品質なニホンジカやイノシシ、あるいは和牛の皮は、狩猟や畜産の現場の高齢化、法規制の変化などにより、安定調達が非常に困難になりつつあります(これは、食料品産業のSCMや、農業の現場管理と同様の課題です)。
- 伝統継承のためのイノベーション: 今回、修復会社様がお誘いくださったのも、「いかに伝統的な膠の品質を維持し、未来へ永続させる(変わり続ける)ためのサプライチェーン(調達網)を、現代の要件に合わせて再構築するか」という、高度な経営課題と向き合っていらっしゃるからこそです。
経営管理の視点と、法務手続きとして支える「永続性のガバナンス」
科博の標本管理や、諏訪大社の御柱祭と同様に、神社仏閣の美も、それを支える強固な経営管理(変わり続けるための組織的な仕組み)によって守られています。
経営管理(管理会計・SCM・法務)として地域産業や組織を支えていく際、目指すべきなのは、単なる事務手続きや短期的な利益率向上という表面的な管理ではありません。
「膠展の皮から美へと昇華されるプロセスのように、地域や組織が長年培ってきた『無形資産(伝統・文化・技術)』を、未来の要件(財務、サプライチェーン、法務、コンプライアンス)に適合するように、泥臭い現場主義の視点(風土)を持って再設計する伴走者」としての役割が求められていると考えます。
おわりに
京都のギャラリーでの膠展は、素材の泥臭さと美に癒やされると同時に、伝統を未来へ永続させる(持続可能にする)ための経営管理のロジックについて深く考えさせられる素晴らしい時間となりました。
風土を歩き、現場の体験をビジネスの論理へと昇華させる。
これからも、このフィールドワークから得られる気づきを大切にしていきたいと思います。
